梅雨の季節。雨が降る日に、私がいつも思い出すのは絵本の『かさもっておむかえ』です。
これは、主人公の女の子が、お父さんを駅まで迎えに行く話。待っていても、なかなかお父さんが来ないので、女の子が電車に乗ると、そこは動物専用車だった・・・というストーリーです。子どもの頃、家にこの本があって何度も読んだのですが、読むたびに、ちょっと怖くて、私にとって特別な本でした。
私の頭の中で動物車両の雰囲気が自然と膨らんで、その雰囲気を何度も味わっていたので、大人になった今でも、しとしと雨が降る日に動物車両の雰囲気がよみがえってきます。
ちょっと心理学的に考えてみると、この動物車両が表現しているのは、慣れ親しんだ普段の世界とは違う「異界」と言っていいのではないかと思います。こういう「異界」に、子どもが一人で迷い込んだり、冒険に行ったりという話は、この『かさもっておむかえ』だけでなく、他の絵本にも出てくるテーマだということに思い当たります。例えば 、『かいじゅうたちのいるところ』がそうですし、『モチモチの木 (創作絵本6)』『おっきょちゃんとかっぱ (こどものとも傑作集)』などもあります。もっと言えば、ジブリ映画の『千と千尋の神隠し』もそうですね。
主人公の子どもは、親と一緒の普段の世界を離れて「異界」に一人で出かけ、怖い思いをしながら困難を乗り越えて、また親元の世界に戻ってきます。
戻ってきた子どもは、もう、以前とは違う子どもになっています。”前と違う”というというその変化は、大雑把に言ってしまえば”成長”と呼ぶべき変化ですね。それは、親が知らない世界、怖い「異界」をたった一人でくぐり抜けた、孤独な冒険故の変化なのだろうと思います。ある意味で、親とべったりだった幼い世界との別れ・隔絶です。
親も知らない世界で、独りぼっちの心細さや、命を落とすかもしれない恐ろしさを味わいながら、なんとかくぐりぬける。そういう冒険が私達の心の成長には必要で、それを皆、心の底でなんとなく分かっているから、こういう「異界」が色んな絵本に出てくるのかなと思います。「異界」は、親から離れた世界での挌闘や怖ろしい気持ちの表現なのだろうと思います。
子どもの頃の私にとっての「異界」が、『かさもっておむかえ』で表現される動物専用車両と重なるものがあったから、あの本があんなに気になっていたのかなと思います。
・・・雨の日。また動物車両を思い出してしまったのでした。